【家族の研究】じいちゃんのハコ

ボクとしたことが忘れものをしてしまった。

図工でつかう「おかしのハコ」。ビー玉をころがしてあそぶ「迷路」を作るための材料だ。いつもはねる前に時間割を見て、教科書やノートをランドセルに入れておくのに。ハコは別のふくろだったから、そのまま忘れてしまった。まわりのみんなはいろんな形のハコをちゃんと持ってきている。

お父さんは仕事だし、お母さんもパートで、家にはだれもいない。カギは首から下げているけど、取りに帰っても図工の時間には間に合わない。ボクは二十分休みの間に、外ぐつにはきかえて、小学校の近くにあるじいちゃんの家に向かって走った。

じいちゃんは家にいて、ストーブの前にすわっていた。よかった。じいちゃんは毎朝、自転車で海岸に行ってコンブをひろう。かわかして「だし」をとるのにつかうそうだ。ボクは泣きながらハコのことをせつめいした。

「よしまかしとけ。ハコなんてナンボでもあるんだ。ワガシのハコでいいのか? こっちも持ってくか? 図工の時間がはじまっちゃうって? わかった、車で送ってやるから。くつはいて待ってれ」

じいちゃんは「車のめんきょ」を持っていないから、うんてんはできないってお母さんがいってたけど。フシギに思っていると、じいちゃんはボクの知らないおじさんをつれてきた。「じいちゃんのともだちの車で行くから。すぐバーっとつくから」

じいちゃんに「ともだち」がいるのが、ボクにはちょっとおかしかった。おとなにも「ともだち」がいるんだな。ニコニコしているおじさんの車で、学校にはすぐについた。ボクはおじさんとじいちゃんに「ありがとう」といって、教室をめざして走った。

ビー玉の迷路は思ったようにできなかった。
どうもボクは工作がニガテみたいだ。