子どもの頃のお正月といえば、母方父方の親戚が家におおぜい集って、連日の大宴会というのが相場だった。田舎住まいでもあり、初売りや外食、ましてや海外旅行に出かけるなんてことは、まだ一般的ではなかったように思う。とにかく親類が多いので、お年玉も大漁だった。
危険が伴う仕事に就いていた父は、年神様を迎えるにあたり、神棚を大切に拵えた。立派なしめ縄を飾り、しめ飾りには半紙で手作りした紙垂(かみしで)や昆布を挟み込んで神棚にぐるりと巡らせた。母は来客に備えて、年末から大量に料理を仕込んだ。煮しめ、煮豆、栗きんとん、きんぴらゴボウ、マリネ。市場の買い出しでは数の子やマグロ、タコ、餅、乾き物のおつまみを仕入れた。
ひと通り宴会が済むと、テーブルを寄せて、大人も子どももみんなで遊ぶ。花札は「こいこい」。トランプやカルタも楽しんだが、我が家にはなぜか本格的な革製のダイスカップがあり、サイコロを六個使う「シックスダイス」で点数を競った。そしてメインは運試しの「ほっぴき」だ。
正式名称は「宝引き(ほうびき)」。室町時代から伝わる正月の福引の一種だそうだが、道東では「ほっぴき」と呼んでいた。用意するのは人数分の細い縄と、五円玉や鈴をリングでつないだ「宝」だけ。ルールは要するにくじ引きで、「宝」を引き当てた一人が場の掛け金を総取りする景気のいいゲームだ。
親はまとめた縄を左手にぐるりとひと回り巻きつけ、ひねりを加えて「宝」を手元に引き寄せておく。右手で縄の束をつかみ、振りかぶって「えいやっ」と場に打ちつける。子は縄先の跳ねた角度や曲がり方、立ち上がり具合の元気さ(?)など、自分なりの勘で「これだ」と思う一本をつかみ取る。
親の腕の見せどころは、口上をやりとりしながら、外れの縄を少しずつ外していく手際で、残りが少なくなるほど場は期待感で盛り上がってくる。「おお、ナオキはいいヤツつかんだな。それ当たりだわ。ちょっと引っ張ってみ。あーあーあーほら鈴がほら、シャンシャンシャンって引っ張られて……って、そんなバカな、ほれえっ(一本だけ引き抜かれて外れ)」
毎年集まっていた親類縁者も一様に高齢化し、あるいは身罷った人も多い。いとこたちもそれぞれ一家を構え、あるいは仕事や家庭の複雑かつハタから見れば不思議な事情を抱えて、昔のように集まることはなくなった。年末年始は当たり前に帰省という過ごし方も今風に多様化していると思う。
昔の賑やかさを思い出すと、なんとも寂しいお正月になってしまっているはずの父と母には申し訳なく思う。そうは思うのだが、相方も子どももいない私はアパートに独り引きこもり、TVゲームに興じているのである。