【家族の研究】愛妻

いやあ、記者さん? いやいや、わざわざ来てもらって、アレでした。はい、徳田と申します。まあホントにねえ、大した話じゃないんだ。そうそう、畑でね、ちょっと変わったニンジンが獲れたもんだから、新聞屋さんに話したら取材してくれるちゅって。そんなん別にいいよって云ったんだけどもねえ。

畑はもうアレです、定年してからだから、二十年ぐらいはやってるか。そうなの、これなんだわ。ほら人の形に見えるでしょう、人間の。腕もあって、脚もほれ。ちょっとグラマーな体型で(笑)。初めてですよ、こんなのは。びっくりでしょ。ね。写真? いいですよ。畑のところで? ハイハイ。

去年ね、妻が亡くなりまして、病気で。いやいいんだ。で、このニンジンがさ、なんか生まれ変わりに見えてねえ。そう奥さんの。そんな話なの。サチエっちゅいます。ちょうど八十でねえ。漢字はえーっとね、幸せの恵みで幸恵。

そうだ、私が二十三の時に結婚したからね。今? ああ、私は八十二です。そんなそんな、元気ですねって云われても、歳も歳だから。畑も大変だけどもねえ。タカコさんが、うん息子の嫁さんが時々来て、面倒みてくれてます。ご飯や何かね、いろいろ助けてもらって。漢字? そればっかり聞いたって、ああ記事書くのにね。

夫婦仲って云われても、そんなんじゃないんだ、私らの時代は。いやあ本当に良くしてもらってましたよ。私も入院して、大変だったと思うんだわ、あの頃は。子どももいて、働いてて。いい奥さんだったんだ。今風に云えばね、そうだ、おしどり夫婦だ。だからこのニンジンがさ、出て来てくれたんじゃないかって。アンタ、まだまだがんばんなさいよっちゅって。ね。

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●おわびと訂正
先月号に掲載した「人形(ひとがた)ニンジンにびっくり! E市・徳田さんの畑物語」の記事に一部誤りがありました。
亡くなった奥様のお名前は「貴子(たかこ)さん」、文中の「幸恵さん」はご長男のお嫁さんのお名前でした。
おわびして訂正いたします。
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