ハードボイルドな私立探偵フィリップ・マーロウが活躍するレイモンド・チャンドラーの短編小説『TROUBLE IS MY BUSINESS』(1939年初出)にはさまざまな邦訳版が存在する。私が持っているだけでも2種類あるが、さてどう訳しますか。
●『事件屋稼業』稲葉明雄訳/創元推理文庫「チャンドラー短編全集2 事件屋稼業」収録/1965年初版
「白昼公然とマーティが人殺しをはたらいた話はきいたことがないけど、ふところに呑んでるのは、葉巻のクーポン券だけじゃあるまいからね」
「もめごとは僕の稼業だ」と、私はいった。「引き受けるなら、一日二十五ドルと、保証金二百五十ドルはほしいな」
●『トラブル・イズ・マイ・ビジネス』佐々田雅子訳/ハヤカワ文庫「チャンドラー短篇全集4 トラブル・イズ・マイ・ビジネス 」収録/2007年初版
「マーティーが真っ昼間に広場で誰かを殺ったって話は聞いたことないけど、あいつが葉巻のクーポン集めてるだけのはずはないんだから」
「トラブルはわたしの飯の種だ」わたしはいった。「一日二十五ドルと保証金二百五十ドル。仕事を引き受けるならね」
このほかに『怯じけついてちゃ商売にならない』(ハヤカワ・ミステリ「ヌーン街で拾ったもの」収録)、『怖じけづいてちゃ稼業にならない』(講談社文庫「チャンドラー/美しい死顔」収録)という清水俊二の旧訳版も2種あるそうで、こっちもいいですね、俗っぽくて勢いがあって。
伝統的な私立探偵は、人と人との摩擦の中でしか仕事は発生しないし、生きられない。事務所を構え、街の大立者の豪奢な邸宅とダウンタウンの裏路地を自在に行き来できるが、金儲けが上手だとは到底思えない。殴られたり、撃たれたりもする変な仕事だ。
以上、負け犬の遠吠え的な減らず口でしたが、どんなに「圧」がかかっても、どんなに独身でも、結局楽しそうに生きていることが最大の反逆だと個人的には考えている。で、そんな私が最近何をしているのかというと、反省の意味も込めて、今を遡ること1万2千年前、狩猟採集の石器時代からやり直しているのである。
▲バイオレンスが描写があるので、苦手な方は閲覧注意を