【家族の研究】父と娘

「やめなさいって、ミユ! ほら、ほかの人も見てるから!」

高速道路のサービスエリア。トイレはだいたい無駄に立派な造りだ。道央自動車道の某SAの男性トイレは、アール状の壁に沿ってアサガオ、つまり男性用の小便器が三十器ほど並び、さらにその島が二列、背中合わせになっている。壮観ではあるが、いくら混んでもそんなに一斉には使用しないだろう。

手を洗って戻ろうとしたところで、声が聞こえた。用を足している男の腰に、小さな女の子がしがみついている。

いたずらっ子の悪い笑顔で、キャッキャと楽しそうに覗き込もうとしている。お父さんの排尿の様子を、まさにその瞬間を目撃したくてたまらないようだ。なぜかは知らない。わかっているのは世界中のどんな男も、その数分はどうしようもなく無防備だということだけだ。

見たところミユちゃんは小学三年生ぐらいか。たぶんいつもそうやってジャレているんだろう。いやジャレているつもりなんだろうが、その年代の子供は意外に力が強い。

注意の声に切迫感と少しばかりの本気の怒りが込められてくる。それを聞いたミユちゃんは敵が焦れば焦るほど、その狼狽ぶりがさらにツボに入るのか、声を出して笑いながら、ますますグイグイと腰を引っ張っていく。

「ミーやめて、だからホントにヤメなさいって……」

この状況、双方の気持ちが何となくわかるような気もするが、力加減のバランスによっては惨状を招きかねない。せっかくの旅が台無しになるぞ。いや待てよ、そもそも何でついて来たんだ、男性トイレに。

お父さんの排尿が無事に、そしていち早く済むことを心の中でそっと祈りつつ、私は車に戻った。